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福岡高等裁判所 昭和22年(ナ)6号 判決 1948年12月27日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は「昭和二十二年四月三十日長崎縣東彼杵郡選挙区に於て行はれた同縣々会議員選挙に依り同年五月五日当選者として告示された竹内淸吾の当選は之を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」

との判決を求め、被告代理人は主文と同旨の判決を求めた。

原告代理人の主張した本訴請求原因の要旨は

一、昭和二十二年四月三十日長崎縣東彼杵郡選挙区で行はれた同縣々会議員の選挙に於ては、候補者は小柳吉藏、岩永〓樹、竹内淸吾、〓野秀雄の四名で、選挙すべき議員の定数は二名であつたが、投票の結果は有効投票総数二六、七六四票の内小柳吉藏が八、九〇三票、竹内淸吾が七、三六七票、岩永〓樹が七、一八八票、〓野秀雄が三、三〇六票を夫々得たものとして小柳吉藏と竹内淸吾の両名が当選者と決定され、その旨同年五月五日告示された。

二、然し乍ら、右竹内淸吾の当選は左記の理由で無効である。

(イ)右候補者竹内淸吾は同郡折尾瀨村選挙管理委員大久保哲老と共謀して右選挙期日の前である同年三月頃より違法な選挙運動を爲し四月三十日の投票及之に引続き行われた開票に際して投票所開票所の内外呼應し少人数の特攻隊と称する者を以て策謀し不正を働き、殊に折尾瀨村、上波佐見町、崎針尾村に於ては選挙違反の事実が顯著で投票の僞造或は增減が行われ全く選挙の自由公正が害せられたのである。仍て右竹内の当選は無効とすべきものである。

(ロ)仮に然らずとするも、各候補者の実際の得票数は前記の告示された数と異り 小柳吉藏 八、八九六票 岩永〓樹 七、三九三票 竹内淸吾 七、二九七票 〓野秀雄 三、一五九票

であつて、小柳と岩永とが当選者となるべき筈であるのを、開票関係者等が殊更誤認誤算した結果竹内が当選者とされたのである。

三、原告は、右選挙の選挙人であるが、右当選の告示を不当として十四日の法定期間内に被告委員会に対し竹内の当選の効力に関する異議を申立てたが、その異議申立を却下する旨の被告の同年五月三十一日附決定書が同年六月四日送達せられたので、本訴を提起した次第である。

と云ふにある。

被告代理人の答弁の要旨は

一、本件選挙の投票並びに開票に当つて原告主張の如き不正、誤認、誤算が行われたものとは思われない。告示の得票数には多少の誤りがあることは爭わないが、決して当選の異動を及ぼす程度のものではない。被告の見るところでは各候補者の得票数は 小柳吉藏 八、八九八票 竹内淸吾 七、三七八票 岩永〓樹 七、三一八票 〓野秀雄 三、一五九票

であると信ずるのであつて原告の本訴請求は理由なきものである。

と云ふのである。

証拠として、原告代理人は検証(第一回)書類の送附嘱託及び証人橋口千代、原尾初次、橋口春雄、森新三郞、竹末宗壽、福本麻吉、黑板勝澄、牧村永作の訊問を申出で送附に係る書類(投票)を甲第一号乃至第百四号証及び甲第百十二号乃至第百三十一号証(内第百十七号証は乙第九号証と同一物)として援用した外甲第百五号乃至第百十一号を提出し、乙号各証の成立を認め、尚被告の申出に係る檢証及び証人訊問の結果をすべて利益に援用した。

被告代理人は檢証(第二回)及び書類の送附嘱託並びに証人森馬太郞、豊增森〓、竹下浜之助、大久保哲老、宮崎鎭人、田崎助五郞の訊問を申出で送付に係る書類(投票)を乙第一号乃至第六十七号証として援助し、甲第一号乃至第百六号及び甲第百十二号乃至第百三十一号証の各成立を認め、甲第百七号乃至第百十一号証は各その証明文書の部分のみの成立を認めてその余の部分は不知と述べた。

理由

一、昭和二十二年四月三十日長崎縣東彼杵郡選挙区に於て長崎縣会議員の選挙が行はれたこと、その議員定数が二名で、候補者が小柳吉藏、岩永〓樹、竹内淸吾、〓野秀雄の四名であつたこと、投票の結果各候補者が夫々原告主張の票を得たものとして小柳吉藏と竹内淸吾の両名が当選者と決定され、その旨同年五月五日に告示されたこと及び、原告が右選挙の選挙人であつて右告示後法定の期間内に竹内淸吾の当選につき被告委員会に異議の申立を爲したけれども、被告よりその異議を却下されたことは総て被告に於て明らかに爭はないところであるから、被告は之を自白したものと看做される訳である。

二、原告は「右選挙に当り竹内淸吾が訴外大久保哲老と共謀し他人を語つて不正な選挙運動を爲し投票並びに開票に当つても不正行爲を爲したので、本件選挙については、多数の投票の僞造又は不正な增減が行はれたので、竹内淸吾の当選は無効である」旨主張するけれども仮に同人に選挙に関する法規違反の行爲があつたとしても同人がその爲刑に処せられ、その刑が確定したとき始めて当選が無効となるべきものであり、しかもその当選無効は刑の確定と同時に法律上当然生ずるもので、別に本訴の如き訴へに於てその旨宣言を無すことを必要とするものでないことが地方自治法及び同法によつて準用される衆議院議員選挙法第百三十六條の規定上明白なところであるからして、原告の右主張が「竹内淸吾には選挙法規違反の行爲があるから同人の当選は無効である」との趣旨に過ぎないならば、本訴では取り上ぐべき事柄ではないのである。

然し乍ら、若し竹内の選挙法規違反の行爲の結果多数の僞造投票が混入されたり、投票の抜取りが行われたりした爲得票の計算が不能となつたとか、その他選挙の管理執行にまで違法を生ぜしめその爲選挙の結果に異動を生ぜしめたと思はれるような場合ならば、ただに竹内淸吾一個の当選のみならず選挙自体を無効としなければならない訳であるけれども、原告の提出援用する総ての証拠に徴するも、本件では右の様な事実は全然認められない。尤も成立に爭のない甲第百五号証によれば、原告よりの異議申立に基き被告に於て調査したところ、さきに発表された折尾瀨村開票所の開票の結果には左記の通りの誤差があるものとされ、從つて選挙区全体を通じての各候補者の得票にも同数の誤差があるものとされたことが判る。

折尾瀨村に於けるさきに発表された数(誤) 正数 差

小柳吉藏の得票数  一、六一一  一、六〇四 減  七

岩永〓樹の得票数     三九    一九〇 增一五一

内田淸吾の得票数    九五二    九五四 增  二

〓野秀雄の得票数    三五七    二一〇 減一四七

有効投票の数   二、九五九  二、九五八 減  一

無効投票の数     一一六    一一七 增  一

選挙区全体を通じてさきに発表された数(誤) 正数 差

小柳吉藏の得票数  八、九〇三  八、八九六 減  七

岩永〓樹の得票数  七、一八八  七、三三九 增一五一

竹内淸吾の得票数  七、三六七  七、三六九 增  二

〓野秀雄の得票数  三、三〇六  三、一五九 減一四七

有効票数    二六、七六四 二六、七六三 減  一

尚右の外にも本訴に於て当事者双方の援用する本件選挙の投票を逐一点檢して見ると、後に詳記の通りさきに爲された投票の認定は相当訂正すべきものがあり、前記折尾瀨村に於ける被告の調査の結果を通じて考へると、本件選挙に於ける開票当時の投票の認定計算は相当杜選に爲されたものがあることが窺はれるけれども、その誤認、誤算は本訴に於て是正すれば足るものであり、その間僞造投票の存在や投票抜取りの事実やその他全選挙を無効とすべき程の選挙管理執行の違法などは毫も之を認むべき証左はないのである。

三、而して当事者双方より援用された甲号乙号各証の投票について逐一点檢した結果は左表に記載の通りである。

表中上欄の「番号」と云ふのは甲号証及乙号証としての番号を示し、「判定」欄に記載したものは当裁判所の判定の結果であつて、「竹内」とあるのは竹内淸吾の有効得票、「岩永」は岩永〓樹の有効得票、「小柳」は小柳吉藏の有効得票に夫々算入すべきものと判定したのであり、理由欄にはその判定の理由を示したのである。

尚此の判定理由について一言すべきことは、今次の選挙に於ては民主々義の根本精神に則り選挙年齢を引下げ女性にも均しく選挙権を與へた結果選挙有権者の数は從前の倍以上にもなつた。その爲無智で文字に習熟せず投票に慣れない者なども選挙に参加したので、或は文字が拙劣不明確であつたり、或は書損訂正をしたり又は從らに汚染を残したりその他不要の点劃を加へたりなど記載方法の適当を欠く投票も非常に多かつたものと思はれるのであるが、選挙本來の目的からしても、又なるべく多数の者を政治に参與せしめんとする民主々義の根本理念からしても、各選挙人の意思はあくまで尊重すべきことは云うを待たない。それ故右のような拙劣不明確な投票であつても、いやしくもそれが文字として読み得るものであり且候補者の誰かを選ぶ趣旨を表明しているものである限りなるべく有効な投票と認むべきは勿論投票の記載自体よりして眞面目に選挙権を行使しようとする意図のないものと認めらるる場合はもとより之を無効とすべきであるけれども、然らざる限り選挙人は眞面目に選挙権を行使せんとする意思、即ちなるべく適法有効な投票を爲さんとして投票したものと認むべきであると共に本選挙の如く立候補制度を採つた選挙に於ては、特別の事情(例へば同時に行はれた町村会の議員の選挙の候補者中投票に記載された氏名と同一又は類似の氏名の者があつた等の事情)の存しない限り各投票は候補者中の一名に向けられたものと推定すべきであつて、たとえ候補者に非ざる一般住民中にその投票記載氏名と同一又は類似の氏名の者が在つたとしても、選挙人はその住民を選ばんとするのではなく候補者に投票したものと認むべきであろう。

尚又前記の如く選挙権の大拡張を見た今日では投票に於ける汚点や不要の一点一画の類の如きも、故意の符号其の他の記載たることが明白でない限りなるべく有効な投票と爲すべきで、所謂「他事記載」をあまり嚴格に解すべきではない。

当裁判所は大体以上の如き見解の下に投票の判定を爲した次第である。

甲号証

番号 判定 判定理由

上波佐見町に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

一    竹内 本表は原告主張の如く「タケヂヒデイコ」と書いてある様でもあるが、然し三字目右側の点は有意の濁点ではなく且その文字も「ウ」又四字目は「セ」であり、即ち全部が「タケウセヂイコ」とも読み得るから「タケウチセイゴ」の誤記と見るのが相当である。仮に「タケヂヒデイコ」としても、竹内の「タケ」と〓野秀雄の「ヒデ」を併せ記したものとは認め難く、全体を通じて「タケウチセイゴ」の誤記と爲すべきである。

二    無効 始めの二字は明瞭に「山川」とあり、下の二字は「齊吾」に近いが左様に読むことすら無理であつて殆んど文字の体を爲していない。結局候補者の誰に投じたものか不明のものである。

三    竹内 「タケフヂ」とあるが、その書方筆勢等よりすると寧ろ「タケウチ」の誤記と認むべきである。之を竹内のタケと〓樹のフヂとの併記と見るのは無理であらう。

四    竹内 始め二字は鉛筆書きで「クス」と読まれ、後の三字は墨字の「ケウチ」であるが、その文字の形や筆勢等よりすれば、辛うじて仮名文字を書き得る程度の選挙人が始め二字を「タケ」と書かんとして鉛筆書きしたものの二字目の誤りを知つて改めて筆墨を以つて三字目に「ケ」を書き以下「ウチ」と書いた儘で、即ち「タケウチ」と爲さんとして二字目の抹消を忘れた儘で、投票したものと認めるのが相当である。もとより有意の他事記入とは認められない。

五    竹内 「竹内」と書いてある字体が特異であつて鉛筆を投票用紙に強く押しつけて幾度も同じところをなどつた形跡はあるが、若し原告の云ふ様に型に依つて描出したものなら何故今少し明確な字体を表はす型を用いなかつたであらうか。むしろ之はその字体や書き振り等よりすれば斯様な字体の文字に多少の興味を有する選挙人が投票の際つい斯様な書き方をしたまでのものとも思はれる。いずれにするも型に依る文字と断定することは出來ない。疑わしきはむしろ有効と爲すべきである。

六    竹内 文字は「タケ内」と読み得る、その文字の上に在るものは「タ」と書かんとして誤つた爲塗抹したものであることが明らかである。タ「ケ」字の上の一点も故意に何等か特別の符号でもつけようとしたものでもなくて無学の悲しさ「ケ」の字を斯様に点を打つて誤り書いものとしか思われない。

七    竹内 右側の一行は「タケウチ」と読み得る。「チ」の右横の一点は全く前票の一点と同様のものと認められ、又左側の記載は「タケ」と書かんとして抹消したものと認められる。故爲の他事記載とは爲し得ない。

八    竹内 上の二字は「タケ」と判読できる。その下にかすか乍ら、鉛筆の痕跡があるが、之又無学の悲しさ文字を書き続けようとして続け得ず、いたずらに無用の痕跡を爲したに過ぎないものと思われるのであつて、決して故意の他事記載とは認め難い。

九    竹内 「タケフヂ」は「タケウチ」の誤記と認むべきこと寧ろ当然である。原告がこれを竹内の「タケ」と〓樹の「フヂ」との混記と主張するのは、いたずらに事を構えるに近いものであつて、採用し難い。

十    竹内 「タケンチ」と明らかに読み取れる。字画不明確で自書力なきものとは勿論云い得ないのみならず、この「タケンチ」は音の近似の点からしても竹内候補者に投じたものと見るのが至当である。

十一   竹内 之は拙劣ではあるが「タケウチ」と読み得る。無学の爲「ケ」を誤り「チ」の横一画を重複する等下手な書き方をしたまでである。

十二   無効 如何に考へても「タケシヌ」又は「タケシタ」としか読めぬ。之では竹内を表はしたものとは認め難い。

十三   竹内 頗る拙劣ではあるが「タケワチ」と読み得らるるところであり之は「タケウチ」の誤記と爲すのが相当である。

十四   竹内 之も更に拙劣ではあるが「タカウセイゴ」と判読し得られぬこともない。「タケウチセイゴ」と書かんとして努力したことが窺れるのであつて無効とすべきではない。

十五   竹内 一見「タワウサ」の如くであるが、之亦「タケウチ」と書かんとして斯様な形となつたものと思はれるのである。

十六   竹内 「タウチ」と読み得るから、「ケ」の一字を落したものと見るべきである。

十七   竹内 字形筆勢より見るに「タケ内」と書かんとしてついに「タケ内」の如くなつたものと認めるのが相当。

十八   竹内 この「タゲウジ」を以て竹内の「タケ」と〓樹の「フジ」の併記となす原告の主張は到底採用し難い。寧ろ「タケウチ」の音の誤りからする誤記と爲すべきである。

十九   竹内 不完全ながら「竹内」と書かんとしたものと見える。名札を透き写したものと認むべき証左はない。

二十   竹内 第二字は一見「ク」の如く見えるが又「ケ」とも解せられ、第四字は鉛筆の跡がかすかであり、且字形が変ではあるが「チ」と読み得ないこともないので、第一字の「タ」第三字の「ウ」を通じて全体として見れば「タケウチ」と読み得る。第四字を除外しても竹内候補に投じた票と認めるのが当然である。

二十一  竹内 「タケウヂ」と読まれるが、「タケウチ」と誤記したものと認むべきである。

二十二  無効「タケダシ」と読むより外なく、之ではいづれの候補者の氏又は名を記載したものとも認め難い。

二十三  無効 殆ど文字を爲していない。いずれの候補者の氏名を書いたものとも認め難い。

二十四  竹内 拙劣な墨字で「タウケチ」と読まれるが、他の候補者の氏名に対照判断すれば、「タケウチ」と書かんとして誤つたものと認むるのが相当である。

二十五  無効 始め二字は「タタ」或は「タク」とも読め得るが、その下は文字の形を爲していない。之を「タケウ」の誤記とするのは無理であつて、いずれの候補者の氏名をも記載せざるものと認むるの外はない。

二十六  無効 之又候補者の氏名を書いたものとは認め難い。

二十七  無効「タ」の一字であつて前同様である。

二十八  竹内「タケ」と記載してあるから、竹内淸吾の投票と認めるのが相当。

江上村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

二十九  無効 殆んど自書力のない者の記載で、第二字は辛うじて「内」と読み得るが、第一字は文字の体を爲していない。「竹内」の票と爲すのは相当でない。

三十   竹内 拙ではあるが「竹内」と読み得る。透き写しで書いものと見るべき証左は全然ない。

江上村に於て無効票に計上されたものの中

三十一  無効 「イ」の一字では如何ともし難い。

三十二  岩永 「イワサフキシ」とあるが、「イワナフジキ」の誤記で四字目に「ガ」の一字を遺脱したものと思はれる。

三十三  岩永 第二字は必ずしも明確でなく「ウ」とも読み得るし、「ワ」とも見えるが、第一字と通じて「イワ」と読み、岩永候補に対する投票と爲すのが相当であろう。

折尾瀨村に於て無効票に計上されたものの中

三十四  岩永 明らかに「イワ」とあるから岩永〓樹に対する投票と認むるを相当とする。

同村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

三十五  竹内 第二字は判読し難いが、第一字は「タ」と読み得るし、第三字は「内」であるから、「タケ内」と書かんとしたものと認めるのが相当であつて、故意の他事記載あるものと爲すべきではない。

三十六  竹内 「タクウチ」の如くであるが、「タケウチ」の誤記であらう。名札を模して記したものと認むべき証左はない。

三十七  竹内 一見「ククウチ」の如くも見えるが、第一字の最終画の中にかすかな点も見る様で即ち「タ」の如くもあり第二字はその恰好よりして「ケ」の意であらうと思はれる。どたどしい筆勢ではあるが、原告主張の様に名札を模して記したものとは認むべき左もない。

彼杵町に於て竹内淸告の得票に計上されたものの中

三十八  竹内 拙劣ではあるが「タケウチ」と読み得る。自筆力なきものとして無効とすべきではない。

同町に於て無効票に計上されたものの中

三十九  無効 「フ」の一字では如何ともし難い。

四十   岩永 頗る拙劣ながら「イワナ」と読み得る。

四十一  岩永 第二字は「ヲ」又は「ウ」と見えるが、他の二字と通じて考へると「イワナ」と書かんとして誤つたものと思われる。

四十二  岩永 第三字は一見「フ」の様でもあるが、之亦三字を通じて「イワナ」の意であることが看取される。

四十三  岩永 始めの二字は「十乃」とも読まれるが、下の二字と綜合して見ると「イワナガ」の意であると認めるのが相当。

四十四  無効 「克水」と書いてあつて、之を「岩永」と認めるのは困難である。

四十五  無効 「中島〓樹」又は「中島〓樹」と読まれる。候補者に非ざる者の氏名を記したものと爲すの外はない。

四十六  無効 「岩永繁」とあるから前同様。

四十七  岩永 拙いが「イワナ」と読み得る。

四十八  岩永 墨痕にじんで明瞭ではないが始め三字は「岩永〓」と読み得るから、岩永〓樹の有効得票とすべきである。

四十九  無効 「イ」の一字で到し方なし。

五十   無効 同前。

五十一  岩永 「イヴナガ」の様であるが「イワナガ」を誤つたものであると認めららるる。

五十二  岩永 頗る拙劣な文字で且墨がにじんでいるので不明瞭ではあるが「イフナブ」又は「イフナカ」と読み得るからむしろ「イワナガ」の誤りと見るべきである。被告の主張の如く「イフセゴ」と読むのは困難である。

五十三  無効 明らかに「山永」とあり、その筆勢字形等よりして第一字「岩」を「山」と誤つたものとも認められない。

五十四  岩永 末字は「ガ」と読むことも困難ではあるが、然し全体を通じて「テイワナガ」の意と解せられ、且始めの「テ」の字は誤つて書いたもので、之を抹消せんとして過つて第二字「イ」に抹消線を加えたもの思われる。

五十五  岩永 頗る拙劣な文字ではあるが苦心して「イワナガ」と書いたものと思われる。

五十六  無効 「山永」とあつて第五十三号と同様。

五十七  無効 「イウゴ」又は「イワゴ」と読むより外はない。斯様なものまでも「イワナガ」の誤記とし、同人の得票に加えるのは相当でない。

宮村に於て無効票に計上されたものの中

五十八  無効 明らかに「岩永岩人」とあり、誤記したものとも思われぬから候補者に非ざる者の氏名を記載したものと爲すの外はない。

五十九  無効 明かに「岩永森一」とあり、前同様で如何ともし難い。

同村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

六十   無効 明瞭に「タケウ タケシ」とあるので前同様。

六十一  竹内 「タケワ」と書いてあるが、筆致字形よりして無学の者が「タケウチ」と書かんとして辛うじて「タケウ」迄書しかも「ウ」の一点を忘れて「ワ」に誤記したものと認めるが相当である。

六十二  無効 明瞭に「山内淸吾」とし、わざ振り仮名で「ヤマウチセイゴ」としているので、「竹内淸吾」の誤記とは認められない。候補者に非ざる者の氏名を記載したものと認めるより外ない。

六十三  竹内 「竹下セゴ」と読まれるが、その用字、筆致等からすれば「竹内セイゴ」の誤記とするが相当。

六十四  岩永 明かに「イワナガ」であつて、之は当然岩永候補の得票に計上すべきもの。過つて竹内候補の得票に混入したものと思はれる。

六十五  竹内 「竹下淸吾」とあつて、「竹内淸吾」の誤記と認められる。

千綿村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

六十六  竹内 この「ダケウチ」はもとより「タケウチ」の誤記と認められる。

六十七  竹内 第一字は「ク」第四字は「ウ」であるが、第二、第三、第五字は共に、「チ」とも「ケ」とも読まれる様な頗る拙劣な文字であるが、第三字は第二字よりも「ケ」に近い。その全体を通じて見れば第三字は第二字の「チ」を「ケ」に書き改めるべく、更に一字を書いたが第二字を抹消するのを忘れたのであつて、結局「タケウチ」を現はさんとしたものと認められる。

六十八  無効 明かに「タケミツサン」とあつて、「タケウツサン」「クケウチサン」の誤記とは認め難い。

六十九  無効 「タケウチセイゴヘ」とあり、最後の一字は他事記入と爲す外ない。

千綿村に於て無効票に計上されたものの中

七十   岩永 「イワナ」と読み得るから岩永〓樹への投票と認むべきである。

七十一  岩永 頗る拙劣ではあるが「イワナ」までは読み得る。「ナ」の下に「ガ」の如き形の記載があるが、或はこれは第三字「ナ」の筆勢の狂いと過つて出來た汚点とも見られる。いずれにしても岩永候補に投ぜんとした票であると認められる。

七十二  岩永 之亦頗る拙いが「イワナカフシキ」と書いたもので末字「キ」を右側に書いたものと認めらるる。

七十三  無効 「イ」の一字は明かであるが、その下は文字とは認められない。

七十四  無効 「山永」と書いてあるから、甲第五十三号証と同様である。

七十五  無効 「イ」の一字では如何ともし難い。

七十六  岩永 「岩永キジユ」としてあるが、同時に行はれた千綿村会議員選挙の候補者中に之に近似した氏名の者がないこと甲第百八号証(同証は眞正に成立したものと認められる)によつて明かであるから、その用字、筆致等をも参酌して寧ろ岩永〓樹に対する投票の誤記と認めるのが相当である。

七十七  岩永 第一字は「イ」第三字は「ナ」(かすか乍ら横の線もある決して「ノ」ではない。)第四字は「ガ」であり、第二字はその中に「ワ」と読み得る部分もある。但し第二字はその全部について見ると殆んど文字と云い難いけれども、その上下の全記載を綜合して考へると「イワナガ」の誤記であること明かである。

七十八  岩永 明かに「イワナ」とある。

七十九  岩永 「イワ」である。

八十   岩永 前同様。

八十一  岩永 「岩永キクジ」とあり、甲第七十六号と同様である。

八十二  岩永 「イナガ」とあるから、「イワナガ」の誤りと見るべきである。

八十三  岩永 「イワナギ」とあるけれども、その筆致等よりすると「イワナカ」と書かんとして誤つたものと見るべきであつて、岩永の「イワ」と小柳の「ナギ」とを併記したものとは認められない。

八十四  岩永 「岩永ギ」とあるが、甲第百八号証によつて同村会議員の候補者中にも斯様な氏名の者がないことよりすると、寧ろ「岩永〓樹」とするのを誤つたものと爲すべきである。

八十五  岩永 「イカナガ」と書いてあるが、第二字「カ」は「ワ」の誤記と認めらるる。

崎針尾村に於て無効票に計上されたものの中

八十六  無効 第一字は明かに「岩」であるが、その下の二字は「不タ」と読まれる。原告は「永」と記載せんとして二度まで試みたものの結局完成し得なかつたのであると主張するけれども、左様に認めるのは困難である。

下波佐見村に於て無効票に計上されたものの中

八十七  岩永 「イワ」とあるから、甲第三十四号等と同様。

川棚町に於て無効票に計上されたものの中

八十八  岩永 始め四字は「イウナカ」とあり「イワナガ」の誤記であることが明かである。その下の二字は不明瞭であるが何等特別の記号符号などとする意志でことさら記人したものではなくイワナガの下に文字を書き続けようとして体をなさなかつたものと認めるのが相当であるから、岩永候補者の得票となすべく、之を他事記載あるものとして無効とするのは不当である。

八十九  無効 「イ」の一字であるから致し方ない

九十   無効 殆んど文字とは認め難い。之を「イハ」と読むのは無理であらう。

川棚町に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

九十一  竹内 「タケウ一」とあり。発音が似通つている爲「タケウチ」を「タケウ」と誤つたもの又は「タケウチ」と記載せんとして「チ」の字を知らずに未完成に終つたものと思われるが、寧ろ前者と認むるのが相当であろう。何れにするも他事記載のある無効の票とするのは相当でない。

九十二  竹内 「タケウチキヨシ」とあつて「キヨシ」は「淸吾」を誤つたものと思はれる。原告は「キヨシ」の下に更に「へ」の一字があると主張するが、之は位置筆力等から見て故意に文字として書いたものとは認められない。むしろ無意識に出來た過ちの鉛筆のりと見るべきであらう。

九十三  竹内 頗る拙劣な文字ではあるが「タケウチ」と読み得る。第三字は原告提出の本証写(記録一〇二丁)に記載の通り「ワ」に二点を打つた如くなつているが、その字形の全体より見て、又前後の三字と通読して「ウ」の誤りと認められる。

九十四  竹内 「ヒーゴ」とあるが、「セーゴ」を誤つたもの即ち「淸吾」を現さんとしたものと認められる。

九十五  竹内 原票について見ると「竹内」と読み得る。

九十六  竹内 第二字は文字の体を爲していないが、第三字は「内」である事が明らかであり、第一字も良く見ると「タ」と読み得ないこともないから竹内候補に投じたものと爲すのが相当である。

九十七  竹内 第一字は「タ」第三字は「ウ」であるが、第二字は「カ」に似て居り第四字は英字「F」の形に似ているけれども四字を通じて良く観察すると、第二字は「ケ」第四字は「チ」を書かんとして良く形を爲さなかつたものと認められるから、竹内の得票として計上したのは相当である。

九十八  竹内 「タキグチ」と書いてあつて、字形も字音も共に「タケウチ」に近似している。たとへ原告主張の如く一般被選挙資格者中には「タキグチ」と読む氏の者が有るとしても、候補者中には之に類似した氏名の者は竹内淸吾以外にないから、竹内候補者に投じた票と認めるのが相当である。

九十九  竹内 「タケノ」とあるが、その幼稚な筆致からすると、「タケウチ」と十分に書き得ず中途にして終つたものと認めるのが相当である。之を「タケウチ」の「タケ」と「ヒラノ」の「ノ」とを混記したものと爲すのは牽強の弁であろう。

百    竹内 「山内淸吾」とあるが、「竹内淸吾」の誤記と認むべきである。

百一   竹内 「タケグチ五」と読まれる。第二字は頗る不明確であるが、「ケ」を二重に書いたもの(恐らく最初に書いた文字が意に満たずして更にその上に記入したもの)と認められる。而して「タケグチ」は「タケウチ」に近似して居り「五」は「淸吾」の吾に通ずるから、竹内候補の得票とすべきであつて、之を「五」の他事記入ある無効の投票だとする原告の主張は採り難い。

百二   無効 「タケウチへ」と明瞭に記載してあるから、他事記入せる無効票と云ふの外なし。

百三   竹内 「竹内淸吾」と記載した「竹」の字の左扁が赤色で書いてあるが、その字形や鉛筆の色合、筋の太さ等より考察すると、之は恐らく被告主張の如く赤黒両色のシャープ鉛筆を用いる人が始め何氣なく赤色で書きかかつで忽ちその不可なることに氣付き、その後は黒色で書き続けたものと思われるのであつて、他の票と識別される意図のもとに殊更赤色を用ひたものとは認められない。されば本票は他事記載あるもの又はそれと同性質のものとして無効とすべしと云う原告の主張は採用し難い。

百四   竹内 甲第百号と同様である。

上波佐見町に於て無効票に計上されたものの中

百十二  無効 第一字は「イ」であるが、第二字は殆んど文字の体を爲していない。原告主張の如く「ワ」と書いて運筆を誤り汚線を印したものとは認め難い。

百十三  竹内 左行に「イ」の一字と、その下に抹消された他の不明の一字があり、右行に「タチウチ」と読まれる記載があるが、之は始め左行の文字から書き始めその誤りであることを覚つて一字だけ抹消した儘右行の四字に書改めたものであり、即ち左行の「イ」は抹消することを忘れたものであると認められる。原告主張の如く、殊更他事を記載したものとは認められない。

百十四  竹内 「タケウチ」の上にある記載が頗る判読し難いものであるけれども、全体を通じて考察すれば、始め「タ」と書かんとして奇怪な形となつた爲改めてその下から「タケウチ」と書いて最初の文字を抹消しない儘で投票したものと認められる。他の票と識別させる爲の故意の他事記載とはなし難い。

百十五  竹内 「タケウチ」の下の記載が之又文字としては頗る読み難いところであるが、然し「殿」との意であると考へられないこともない。之を他事記載があるものとして無効と爲すのは相当でない。

江上村に於て無効票に計上されたものの中

百十六  無効 達筆明瞭に「〓永秀樹」としたためてある。その筆力字配り等より見て「岩永〓樹」を「〓永秀樹」と誤記したり又は左様に思い違いをして書いたものとは到底認め難く、故意に「〓永秀樹」と記載したものと思われるから無効と爲すの外ない。

折尾瀨村に於て無効票に計上されたものの中

百十七  無効 本票は、被告も之を乙第九号証として援用しているのであるが、第一字は「イ」よりもむしろ「ケ」又は「ク」に近く、第二字は「ワ」よりも「タ」に近い。その下の三字は「ナフチ」と読まれるから結局「ケタナフチ」又は「クタナフチ」と爲すべく、しかも第一字は他の四字に比し特に字型小さく自信なげに書いてあり、総じて幼稚な筆致であること等から考察すると或は第一字は書くことは書いたが、自信がないので改めて第二字以下を書き第一字を抹消しない儘で投票したものとも考へられる。從つて、之を岩永候補に投じた票と認めるのは困難であると共に又竹内候補の爲の投票と爲すのも無理であつて、無効票に計上されたのは当然であろう。

同村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

百十八  無効 「タチウタ」とあつて、之を「タケウチ」の誤記とするのは相当でない。

宮村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

百十九  岩永 之は明かに「岩永〓樹」とあり、同人の得票に計上すべきものを誤つて竹内淸吾の得票に混入計上したものであろう。計算を訂正すべきである。

千綿村に於て無効票に計上されたものの中

百二十  無効 「ノフガ」又は「イマガ」と読まれる。「イナガ」と読むのは困難であり、從つて又之を岩永候補に投票したものと爲すのは無理である。

百二十一 無効 明かに「イワオ」とあり、之を岩永候補に投じたものと爲すのは無理である。

同村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

百二十二 竹内 「竹内」の下の墨痕は始め「淸」と書かんとして自信なき爲之を抹消したものと認められる。他事記載と爲すべきではない。

百二十三 竹内 候補者氏名欄外左横の小墨点も故意の符号や印と見るよりもむしろ何等かのはずみに生じた汚点に過ぎないものと認めるのが相当である。

百二十四 竹内 本票々面の汚点も又同様に見受けられる。

百二十五 竹内 「竹内淸吾」の吾の横の一点も又同様。

百二十六 竹内 欄外注意書の部分の墨痕も全く偶然の汚線と認められる。

百二十七 竹内 「タケウケ」の上の墨痕は文字を書き損じて抹消したものであることが明であり、竹内候補に投じた票であることも自ら推察せられる故之を竹内の得票に計上したのは当然である。

下波見村に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

百二十八 竹内 始め三字は「タケウ」と読まれるが、その下に記載したものは全体の文字の幼稚さ、その傾斜、筆の方向、上からの続き等より考へると、原告主張の如く「×」符号と見るよりは、むしろ「チ」と書かんとして成らざりしものと認めるのが相当である。他事の記載と爲すべきではない。

百二十九 竹内 「タケウ」の下の記載は「チ」と書かんとして自信なき爲抹消したに過ぎないものと認められる。何等か特別の意味を示さんが爲に○を加筆したものとは認められない。

川棚町に於て無効票に計上されたものの中

百三十  無効 原告主張の如く用紙を逆さまにして眺めて見ても、之に記載したものを「イワナカ」と読むことは困難である。殆んど文字の体を爲していないから無効とする外はない。

同町に於て竹内淸吾の得票に計上されたものの中

三十一  無効 達筆迄とは云い難いとするも少くとも決して左程下手ではない筆致を以て明瞭に「竹内秀雄」と記載してあるからして、之を「竹内淸吾」に投じた票と爲すことは出來ない。

乙号証

江上村に於て無効票に計上されたものの中

一    竹内 字形や筆勢等よりして必ずしも全然自書力のない者が手本を見て模写したものとも認められず、兎も角も「竹内」と読み得るから、無効とすべきではない。

竹内 「タケウン」とあるが、第四字は「チ」の誤りと認めるのが相当である。

三    竹内 始め二字は「竹内」と書いてある。下の二字は不明であつて、之を「正吾」と読むのは無理であるが、上の二字に比して鉛筆の色の薄く力なきことや、文字の形などよりして、如何にも自信なげに見えるのであつて、恐らく文字を良くしらず自信のない儘模索的に書いて投函したものと思われる。兎もあれ之を自書せざるもの又は他事記載あるものとして無効とするのは相当でない。竹内候補の得票とすべきである。

四    竹内 「岩内淸吾」とあるが、「竹内淸吾」の誤記と認むべきであろう。

五    竹内 「竹内せけん」としてあるが、「竹内せいご」の誤りと認めるのが相当である。

六    無効 「竹下」とあるから、候補者に非ざる者の氏名を記載したものとするの外なし。

七    無効 必ずしも達筆ではないが、明かに「竹内時夫」とあるから前同様である。

折尾瀨村に於て無效票に計上されたものの中

八    竹内 「竹口」とあるが、その字形筆力等から見ると、「竹内」を誤記したものと認められる。

九    無効 本票は甲第百十七号としてさきに記述した通り。

十    竹内 「タケ」と書いてあるから、甲第三十四号第七十九号と同断。

折尾瀨村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

十一   岩永 「イワ」とあるから乙第十号と同断。

彼杵町に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

十二   岩永 「岩永」の下左横に縦の一線があるが、之は第三字を書かんとして自信なき爲一線だけにとどめたものと認められるから他事記載として無効とするのは相当でない。

十三   岩永 第一字は「石」と読まれる。「石」は「岩」に近似して居り、第二字は「永」であるから、その字体筆力等も参酌すると「岩永」を誤記したものと認めるのが相当である。

十四   岩永 字体が少しおかしいけれども、「岩永」と記載せんとしたものであることが認められる。

十五   岩永 「イワ」とあるから、乙証第十号証と同断。

十六   岩永 「イワ」とあり同前。

十七   岩永 「イハ」とあり同前。

十八   岩永 「イワ」である。

十九   岩永 「イワ」である。

二十   岩永 「イワ」である。

二十一  岩永 「岩崎〓樹」とあり、「岩永〓樹」の誤記と認むべきである。

二十二  岩永 頗る拙劣ではあるが、議員候補者氏名欄には逆さまに「イクナ」としてあり、その右側欄外に「ガ」と書いてあつて、「イクナ」は「イワナ」と書かんとしたものであり、その下に余地が無い爲欄外に「ガ」を書いたものと認めるのが相当である。

二十三  無効 「井輪長富士木」と書いてある。その使用文字と筆跡よりすればこの投票が「岩永〓樹」の一文字をも知らず「井輪長富士木」と書かざるを得なかつたものとは到底認め難い、にも拘らずかくの如き無用のあて字を用いたのは畢竟投票者が眞面目に「岩永〓樹」を議員として選出するの意思を欠いたものと認めざるを得ないから本票は無効とするのが相当である。

宮村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

二十四  小柳 明らかに「コセナギ」とあるから、候補者小柳吉藏に対する投票とするのが当然である。

二十五  小柳 同前。

二十六  無効 「岩永吉藏」とあり、岩永〓樹と小柳吉藏とのいづれの候補者に投じたものとも確認し難い。

宮村に於て無効票に計上されたものの中

二十七  無効 明瞭に「杉本淸吾」とあるから、議員候補者に非ざる者の氏名を記載したものと爲すより外はない。

崎針尾村に於て無効票に計上されたものの中

二十八  竹内 左側に「タケダ」と読まれる三字があり、その右側に一見「タチワケセイヨ」と見える文字が記載してあるが、左側の三字は抹消せんとした形跡もあり、右側の文字と合せて全体を観察すると、始めこの三字を書いて見たが、自信なき爲右側に書き改めたものであることが、明瞭である。而して右側の第二字も「ケ」と読み得る余地もあり、「也」は「セ」の意であるとすれば、その全部を通じて「タケウチセイゴ」と書かんとして十分明白に表わし得なかつたものと認めるのが相当である。

二十九  竹内 拙劣で明瞭とは云へないが、「タケ」と記載したものと読まれるから、甲第三三号等同様に判定する。

三十   無効 第一字は「竹」であるけれども第二字はむしろ「田」に近く「内」とは読み難いから、竹内候補への投票と爲すのは相当でない。

三十一  竹内 「タケンチ」と記載してあつて、発音上「タケウチ」を誤つて斯様に書いたものと認めるのが相当である。

三十二  無効 「タケシ」とあつて之を竹内淸吾への投票と見るのは困難である。

上波佐見町に於て無効票に計上されたものの中

三十三  無効 本票に記載のものは殆んど文字の形を爲していない。之を竹内と読むのは無理である。

三十四  無効 「ヒコ」と書いてあつて、之を「セイゴ」の誤記と見るには両者の相違が余りに甚だし過ぎる。

同町に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

三十五  岩永 末字の右側の点は濁音を表すものと見れば本票は「イバナガ」と読まれ、「イハナガ」即ち「イワナガ」の誤記たること殆んど明らかであるから岩永候補への有効投票と認めるのが至当。

千綿村に於て無効票に計上されたものの中

三十六  竹内 「川内淸吾」と読まれるが本票の筆致字形などをも参酌すると、「竹内淸吾」の誤記と認めるのが相当である。

三十七  無効 「月片セイゴ」とあるから、竹内淸吾への投票とは爲し難い。

三十八  竹内 本票「竹中」の「中」は「ウチ」とも読むし、候補者中竹内淸吾の外に類似の姓の者もないから、むしろ「竹内」の誤記と認めるのが相当である。

三十九  無効 「竹川」とだけあるだけであるから、竹内候補への投票とは爲し難い。

四十   無効 「竹田」とあるから前に同じ。

千綿村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

四十一  岩永 「イワカガ」と読まれるが、その筆勢字形等に徴して「イワナガ」と書かんとして誤つたものと認められる。

四十二  岩永 「イフナガ」とあるが、之も前同様。

四十三  岩永 拙劣な文字で「ナサナガフシキ」と読まれる様に書いてあるがその第二字は「ワ」と見れば「ワ」とも読める。その筆勢字形等に鑑みその全部を通して見て、「イワナガフジキ」の誤記と爲すべきである。

四十四  岩永 本票「イワナガフジキ」の末字「キ」の横に一点があるが、その大きさ位置形状等を全体の文字の書き振り等に照して考へると、之は書き終りの爲に何氣なく打つた点か乃至は過つて生じた汚点に過ぎないものであろう。兎も角も何等か特別の意図を以て故意に記載したものとは認められないから、有効投票と認むべきである。

四十五  岩永 「岩永」の右下に一点があるが、之も前同様有意の記載とは認め難い。

四十六  岩永 第一字は「イ」第三字、第四字は「ナカ」であつて第二字目がかすかに短かい横の一線「一」を示してゐるに過ぎないが、良く見ると此の一線は「ハ」と書かんとして左右がつながつたものと見える。兎も角全体を通じて字形筆勢等に照して「イハナガ」又は「イワナガ」と書かんとして成らなかつたものと認められる。

四十七  岩永 之又拙い字で「イフナガ」とあるが、「イワナガ」の誤記と認むべきことは殆んど云うを待たぬ。

四十八  岩永 一見「岩永ブシト」と読まれるが、良く見ると末字は或は「キ」とも認められる。全体の筆勢書き振りよりして「ブ」の濁点は「シ」に打つべきを過つたものであり、「岩永フジキ」と書かんとして誤記したものと認めるのが相当。

四十九  岩永 「イワナガ」の「ガ」の右下の隅のはねのところより更に右横下に一線が突出してゐるので、はねに相当する部分と相まつて恰も「ヘ」の字形を爲している。それで被告代理人は「イワナガへ」となし、他事記入した投票だと主張するのであるけれども、全体の書き振りや筆勢等から考へて見て、特に「ヘ」字を加へたものとか、その他有意の記載とを認め難いから岩永候補への有効投票と爲すのが相当である。

五十   岩永 「岩永」の最終画の右横に僅かに離れて更に不要の一点が書いてあるが、その位置形状等を全体の書き振りや筆勢などと考へ合せると、これこそ筆の余勢による汚点か乃至は書き終りの爲何氣なく打つた点に過ぎないものと認められ、有意の記載とは決して認め難い。

川棚町に於て無効票に計上されたものの中

五十一  無効 「タケシタ」とあるから、致し方ない。

同町に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

五十二  無効 候補者氏名欄内に「イワナガ」とあり、その左欄外に「ウロシテ」と読まれる記載があるから、議員候補者に非ざる者の氏名を記載したものか、又は他事を記載したものとして無効の票と断ぜざるを得ない。

五十三  無効 明瞭に「岩永吉次」とあり、殊に成立に爭のない乙第六十七号によれば、川棚町に同氏名の者の居住してゐる事実も認められる故議員候補者に非ざる者の氏名を記載したものと認むべきである。

五十四  岩永 「イハガ」と書いてあるが、筆致字形等より考察すると、「イハナガ」と書かんとして「ナ」を脱落したものと認めるのが相当(甲第六十一号参照)

五十五  岩永 一見「イワイケ」とも読まれる記載であるが良く見ると第三字は「ナ」第四字は「カ」と書かんとしたものと見え、その幼稚な書き振りに鑑みると、むしろ「イワナカ」と書かんとして良く書き得なかつたと、認めるのが相当であるから、岩永候補への有効投票とする。

五十六  岩永 一見「イケナガ」と読まれる記載がしてあり、「ケ」と「ナ」の中間に一字抹消してあるが、之も又幼稚な書き振りや字形等に照して考へると第四字は「ガ」と書かんとしたものとも認められる。要するに「イワナガ」と記載せんとして表はし得なかつたものと認めるのが相当である。

下波佐見村に於て無効票に計上されたものの中

五十七  竹内 頗る拙劣で一見「タクヽサ」とも読ませるが、その幼稚な字形筆勢等から考へると第一字は「ケ」その下は「ウ」と書かんとして「クヽサ」の形となつたものと思はれる。即ち「タケウ」を表はさんとしたものと認められるので竹内候補への投票とするのが相当である。

五十八  竹内 之も又頗る拙劣な文字であるが、始め三字は「タケウ」最後は「コ」と辛じて読み得る。「ウ」と「コ」の間のものが殆んど文字の形を爲していないけれども、全体を通じて竹内淸吾へ投票したものと認めらるるのである。

五十九  無効 「タカ」とありその下に一字抹消した形跡があるだけであるから、竹内淸吾その他議員候補者への投票とは爲し難い。

下波佐見村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

六十   岩永 「イワナカガ」とあるが、之は始め四字書いて、濁点に関心があつた爲更に一字「ガ」を書いた儘前の「カ」を消すことを忘れてその儘投票したものと思われ、いずれにするも有意の他事記載とは認め難いので有効票とすべきである。

彼杵村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

六十一  岩永 「ノワナガ」としてあるが、その幼稚な筆致からしても「イワナガ」と書かんとしたものと推察出來る。

千綿村に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

六十二  岩永 「イワノガ」とあるから、「イワナガ」の誤りと認むべきである。

川棚町に於て岩永〓樹の得票に計上されたものの中

六十三  岩永 「イワナガウチキ」と読まれる七字の上に直径約二糎の丸形の墨痕があるが、その形状墨色等より見ると、決して拇印とは認められない。單なる汚染に過ぎない様である。尚その左側欄外に一見拇印とも見える略ぼ同大の墨色の丸形痕跡があるが、之はこの投票を折り疊んだ爲に未だ十分乾かないところの前記の欄内の汚染が欄外に写つて生じたものであること殆んど疑ふを容れないのである。從つて以上の墨痕は何等有意の他事記載を以て目すべきではない。

四、かくして、前に竹内淸吾の得票に計上されたものの中無効票と爲すべきもの十五票、岩永〓樹の得票と爲すべきもの二票、合計十七票であり、前に無効票に計上されたものの中竹内淸吾の得票と爲すべきものが十四票であるからして、差引三票を同人の総得票より控除すべきである。

他方、前に岩永〓樹の得票に計上されたものの中無効票と爲すべきもの四票、小柳吉藏と爲すべきもの二票、合計六票であり、又前に無効票又は竹内候補者の得票に計上されたものの中岩永〓樹の得票と爲すべきものが三十票あるから、差引二十四票は同人の総得票に加算しなければならない。

仍て、前示被告のさきに訂正した得票数に当裁判所の判定の結果を加除表示すれば

候補者氏名 被告調査の結果の得票数 判定の結果

小柳吉藏 八、八九六  増二 八、八九八

竹内淸吾 七、三六九  減三 七、三六六

岩永〓樹 七、三三九 増二四 七、三六三

〓野秀雄 三、一五九  ナシ 三、一五九

となり、結局小柳吉藏と竹内淸吾とが当選者となるべきことに変りはないこととなつた訳である。

されば、さきに被告が原告より竹内淸吾の当選に関して申立てた異議を却下したのは結局正当に帰し、本訴請求は理由なきものと云うべきものであるから、民事訴訟法第八十九條に則り主文の如く判決した次第である。(昭和二三年一二月二七日福岡高等裁判所判決)

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